「慰霊碑建立プロジェクト」Vol.2 ー橋のかたちに込めた想い
2025年4月に発信した「慰霊碑建立プロジェクト」Vol.1には、多くの方々から温かい反響をいただきました。
今回はその続編として、慰霊碑のデザインに込めた想いや、制作の舞台裏、そして現地でぜひ注目していただきたいポイントを、慰霊碑をデザインした川田工業 事業企画部の三宅律子さんに紹介していただきます。

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●Profile● 三宅 律子 さん
みやけ りつこ ● 川田工業株式会社 事業企画部 係長。慰霊碑のデザインを担当。点描画家としてアーティスト活動もされてます。
慰霊碑の注目ポイント
「メインコンセプトは"橋"ですが、実は「⼋⽅よし」の"八"の字や、創業の地「富山」の"山"も意識しました」
デザインの出発点
「100年前の創業者が見ても、川田らしいと感じられるものを」その想いから、私の中で最初に思い浮かんだのは"鉄"でした。
しかし、鉄には決まった「かたち」がありません。
当社の歴史を象徴する素材である一方で、それをどう慰霊碑として表現するかとなると、抽象的なイメージしか浮かばず、そこから先に進めない日々が半年ほど続きました。そんな中、ふと視点を変えて、「そもそも、この慰霊碑の建立を発案したのは故・川田忠樹相談役。であれば、相談役が見て"川田らしい"と感じるものが一番ではないか」と考え直し、その結果として出た答えが"橋"でした。 橋は、川田工業のブランドイメージそのものであり、人と人、場所と場所、時代と時代をつなぐ象徴。こうして、"鉄"から"橋"へと発想を転換したことで、デザインの方向性が一気に定まりました。


デザインコンセプトの核
― 「つくる人・渡る人」の視点
慰霊碑のデザインにおいて、私が最も大切にしたのは、「橋をつくる人」と「橋を渡る人」、その両方の視点に立つことでした。

― 横からではなく、正面から見る"橋"
一般的に、橋をモチーフにする場合は、横から全体像を眺めるようなデザインが多く見られます。それは、橋を風景の一部として捉えた視点であり、構造物としての魅力を引き出す方法でもあります。しかし、横向きのデザインでは、参拝者がまるで川の中を歩いているような印象になり、現実感が薄れてしまうと感じました。それ以上に、橋と正面から向き合うことで、橋を"つくる側"の視点を、より強く表現できると考えました。

― モチーフは「明石海峡大橋」
慰霊碑は、川田工業にとって象徴的な存在である「明石海峡大橋」をモチーフにしています。この橋は、主塔や補剛桁の設計・製作・架設に加え、、ヘリコプターによるパイロットロープ渡海作業を実現するなど、まさに当社の技術と情熱の結晶です。私自身も初めてこの橋を渡ったとき、主塔を見上げた瞬間の感動が今でも記憶に残っています。その記憶に残るアングルを、橋を見上げたときの臨場感そのままに、慰霊碑のデザインに反映させました。


デザインのこだわりポイント
慰霊碑のデザインには、素材選びから構造表現、象徴的なモチーフに至るまで、細部にわたってこだわりを込めています。
― 白と黒のコントラスト
橋の白さを際立たせるため、メインの石材には、茨城県笠間市稲田地区で採掘される御影石の一種「稲田石(いなだいし)」を使用しました。この白い御影石は、2024年7月に国際地質科学連合(IUGS)によって「世界のヘリテージストーン」に認定された日本の銘石です。一方、参道に見立てた敷石には、インド産の「クンナム石」を使用。黒い石材はアスファルト舗装を表現すると同時に、白を基調とした空間におけるアクセントカラーとして、全体を引き締めています。


― ケーブルの再現に込めた技術と美意識
橋の象徴ともいえるケーブルの表現には、特にこだわりました。遠近感を出すために、曲線の角度や強度の調整に試行錯誤を重ねました。制作を担当した須藤石材株式会社(本社:東京都豊島区、代表取締役社長 須藤恵貞様)のご協力のもと、何度も3Dモデルによる検証を行い、ようやく納得のいく形状にたどり着きました。


また、橋の構造を象徴する要素として、ケーブルの断面もデザインに取り入れています。これは、構造物としての橋のリアリティと、技術者としての視点を表現するための工夫です。


― 光を集める「ガラスの社章」
慰霊碑の中央には、主塔の間を昇る朝日をイメージして、社章をあしらった光学ガラスのシンボルを配置しました。これは、創業の地・富山=ガラスという印象から着想を得たもので、須藤石材様のブランド「ガラスのお墓「エテルノルーチェ」との親和性もあり、採用しました。


― 金属の存在感
「ガラスの社章」を支えるフレームには、ステンレスを使用しています。慰霊碑の構造そのものではありませんが、必ずどこかに金属を使いたいという想いから採用しました。石と金属の対比が、構造物としての力強さと繊細さを同時に表現しています。

― 青玉砂利で海を表現
慰霊碑の周囲には、青みを帯びた高知県産の「青玉砂利」を敷き詰め「海」を表現しています。この石には、水に濡れると青みを増す特徴があります。


「これまでの100年、これからの100年」
この慰霊碑は、ただ過去を悼むための場所ではありません。ここを訪れるすべての人が、橋をつくるという営みの重みと尊さに触れ、これまでの100年を胸に、これからの100年へと想いをつなぐ場所となることを願っています。
三宅さん、ありがとうございました。
次回以降は、慰霊碑の制作現場の様子や、実際に携わった方々へのインタビューなどを通じて、さらに深くプロジェクトの舞台裏をご紹介していく予定です。どうぞ引き続きご覧ください。
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【プレスリリース】川田工業が牛久浄苑に「慰霊碑」を建立
- https://www.kawada.jp/news/2025/pdf/20250428_memorial.pdf
-
牛久浄苑
- https://bosan.net/
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