2022/05/24 社会 地域社会 コミュニケーション

川田工業、特別支援学校で「多感覚を刺激するデジタル教材」のデモ体験会を実施

川田工業は2021年12月20日~22日、埼玉県立越谷特別支援学校において「多感覚を刺激するデジタル教材」のデモ体験会を実施し、同校の児童14名に体験してもらいました。

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越谷特別支援学校で実施したデモ体験の模様

近年、川田グループが取り組んできた「障がい者福祉」に関する活動は、特定NPO法人ハンズオン東京が主催するイベント「Lives Project」への協賛、株式会社オリィ研究所と共同開発した「テレバリスタ(Tele-Barista)」、また、同社が運営する「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」への協賛、そして、今回の活動のきっかけとなった特別支援学校への「OriHime(オリヒメ)」の販売などがあります。

今回、「何か学校の役に立ちたい」という当社の想いに賛同いただいた「埼玉県立越谷特別支援学校」と協同で取り組んだ内容をご紹介します。

特別支援学校の課題抽出(肢体不自由児が抱える「学習の困難さ」)

2021年7月、コロナ禍という状況下で感染防止対策に細心の注意を払いながら、越谷特別支援学校での最初のヒアリングを実施しました。同校は、脳性まひ等による肢体不自由のある子どもが多く通う学校です。先生方からは、学校生活や授業に関する多くの話題が出た中で、学習についていくつかの課題が浮き彫りになりました。

  • ●脳性まひによる肢体不自由児の身体硬直や緊張がもたらす「学習」の困難さ
  • ●一人ひとりの障がいに合わせて「教材」を手作りしなければならない困難さ
  • ●ダイナミックに多感覚に働きかけるような「デジタル教材」を作る困難さ
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越谷特別支援学校の校舎 
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ヒアリング

新しいデジタル教材の提案(多感覚を刺激して「心地よい学び」を)

上述の課題から、「教材」をテーマにした支援について掘り下げていくことになりました。先生方と打ち合わせを重ねていく中で、肢体不自由児に対して「多感覚を刺激するメリット」や「普段どのような教材を使っているのか」を教えていただきました。

私たちがよく耳にする感覚には、視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚といった「五感」と呼ばれるものがありますが、それ以外にも「固有覚」や「前庭覚」といった感覚があります。固有覚は身体の位置や動き、力の入れ具合を感じる感覚、前庭覚は身体の傾きやスピード、回転を感じる感覚です。特に、触覚・固有覚・前庭覚の3つは、発達につまずきのある子どもが抱える問題に大きく関わり、こうした感覚を養う教材の一つが「エアートランポリン」で、容易に扱える教材でもあります。

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五感と基礎感覚を合わせた7つの感覚

 
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エアートランポリン

一方、感覚刺激空間を用いた教材は「スヌーズレン(※1)」と呼ばれ、そのリラックス効果が重度の肢体不自由児の身体硬直の緩和にも役立つといわれていますが、そのような「多感覚を刺激するデジタル教材」を先生方だけで作る困難さは、悩みの一つとなっていました。

(※1 オランダ語で「クンクン匂いを嗅ぐ」、「うとうとする」という用語を組み合わせた造語。1980年代以降に世界で広まり、障がい者のほか認知症のケアなど、さまざまな分野に応用されています。)

こうして先生方からのリクエストをもとに生まれたのが、エアートランポリンとバーチャルを組み合わせたデジタル教材のアイデアです。その内容は、エアートランポリンを白いカバーで覆い、プロジェクターによる臨場感ある映像と音響を使って多感覚を刺激する環境を作るというものです。さっそく学校の協力を得て、デモ体験会を実施することにしました。

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担当者が描いたデジタル教材のデモ体験イメージ

デモ体験に向けた準備(カバー製作から設営まで)

同校にあるエアートランポリン(約3.5メートル四方)を覆う白いカバー制作は、地元のバルーン製造会社「有限会社クラウン・ビー」の協力により、当社担当者が縫製を行いました。

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接合部の強度を上げるため「折り伏せ縫い」を習う

 
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手作りしたカバーの仕上りを確認中

プロジェクターで壁面に投影する映像は、「埼玉県には海がないので体験させてあげたい」というリクエストから、「浅瀬と深海」という2つの情景をテーマに素材を用意しました。

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映像1(水面の上下が見える情景)

 
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映像2(深海で色鮮やかなクラゲと浮遊する情景)

デモ体験の実施及びセンサーによる効果測定(デモ体験で教材の「心地よさ」を検証)

12月20日~22日の3日間、同校の小学部1~3年生14名に対してデモ体験を実施しました。当日は、エアートランポリンと2種類の映像(各5分)を使って、①エアートランポリンのみ(映像・音響なし)/②デモ体験(映像1)/③デモ体験(映像2)/④デモ後の安静時の順に体験してもらい、刺激の変化による効果検証を行いました 。

検証は、五感を研究する一般社団法人「KANSEI Projects Committee」(以下、KPC)の協力を得て、心拍センサーを用いたウェアラブルデバイスを3台使用して行いました。デモ体験に参加した14名のうち、なるべく比較分析しやすい条件で9名の児童を選定し、一人ひとりの「リラックス」と「緊張」の度合いを、デモの体験前・体験中・体験後で比較しました。

多くの児童で「リラックスだけでなく、活力も向上していた」という効果が確認されました。参加した先生方からは、「いつもは硬直で体が曲がらないような子が、手足を自由に伸ばしてリラックスしていた」、「うまく授業に組み合わせて活用したい」という声をいただきました。

この模様は、「読売新聞埼玉版」や「東武よみうり新聞」など地元メディアにも取り上げられました。

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映像1(浅瀬と魚)の体験

 
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映像2(深海とクラゲ)の体験

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肘をついて映像を眺める児童

 
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クラゲに興味を示す児童

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先生方にも体験してもらいました

 
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小池校長もチャレンジ

デジタル教材によるリラックス効果の成果報告会

2022年2月22日、オンラインによる成果報告会を開催し、KPCより、事前に行った感覚プロファイリングと実際の検証から得られた計測結果をもとに、一人ひとりの感覚の「過敏さ」や「過鈍さ」に照らし合わせた「デジタル教材によるリラックス効果」の分析結果が報告されました。

先生方からは、「これまで教材の使用中だけ子どもの様子を注視していたが、これからは使用前後の変化も意識してみたい」、「刺激反応の類型化ができれば、個人に合わせた指導方法や活動設定がしやすい」といった意欲的な声があがりました。

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オンラインによる報告会

 
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参加された越谷特別支援学校の先生方

おわりに

この活動は、特別支援学校や障がい児を取り巻く現状を知る上で大きく役に立ち、先生方や児童の皆さんから多くのことを教えられました。活動を通して学校との深いつながりを築けたことや、製作・検証の協力者が得られたことで実のある活動となり、こうした社会課題解決には「周囲を巻き込む力」が必要なのだと実感しました。

今回の検証結果は、今後の特別支援学校における課題解決に役立てられます。

<関連するSDGs目標>

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